後継者不在を理由としてM&Aによる事業承継を検討しているが、資金的な問題でM&Aに踏み出せないという経営者の方も多いのではないでしょうか?
確かにM&Aにはお金がかかるので、金銭的に余裕がない事業者の方はM&Aを実行したくてもできないという問題があります。
そのような方を後押しするために、国はM&Aを実施する事業者に対して「事業承継・引継ぎ補助金」という補助金を用意しています。
補助金はどの程度支給され、何に使用できるのか等、事業承継に関する補助金について詳しく解説していきます。
事業承継・引継ぎ補助金の概要
MA&などの方法によって事業承継をする際に発生する経費の一部を国から補助してもらうことができる補助金が「事業承継・引継ぎ補助金」です。
まずは補助金の概要や補助金額の上限、補助を受けるための条件などについて詳しく見ていきましょう。
補助金の概要
事業名 | 補助率 | 補助上限金額 | 補助内容 | 補助対象経費 |
経営革新事業 | 1/2 | 500万円以内 | 事業承継やM&Aを契機とした経営革新等(事業再構築、設備投資、販路開拓、経営統合作業(PMI)等)への挑戦に要する費用を補助 | 設備投資費用、人件費、店舗・事務所の改築工事費用 |
専門家活用事業 | 1/2 | 400万円 | M&Aによる経営資源の引継ぎを支援するため、M&Aに係る専門家等の活用費用を補助 (M&A支援機関登録制度に登録されたファイナンシャルアドバイザー(FA)またはM&A仲介業者によるFAまたはM&A仲介費用に限る) | M&A支援業者に支払う手数料、デューデリジェンスにかかる専門家費用、セカンドオピニオン |
廃業・再チャレンジ事業 | 1/2 | 150万円 | 再チャレンジを目的として、既存事業を廃業するための費用を補助 | 廃業支援費、在庫廃棄費、解体費 |
M&Aアドバイザーなどの専門家を活用して、事業承継をする場合には、M&Aなどの専門家へ支払う費用の1/2を上限500万円まで補助を受けることができます。
またM&Aや事業承継を活用して経営革新を行う場合にも補助を受けることができます。
また、再チャレンジのために既存事業を廃業する場合も上限150万円まで補助を受けることが可能です。
補助対象者
補助を受けることができる対象者はそれぞれの事業に応じて次のように異なっています。
経営革新事業
事業承継、M&A(経営資源を引き継いで行う創業を含む。)を契機として、経営革新等に挑戦する中小企業・小規模事業者(個人事業主を含む。)
経営革新事業は次の3つの形態に分かれています。
- 創業支援型(Ⅰ型)
- 経営者交代型(Ⅱ型)
- M&A型(Ⅲ型)
- 創業支援型(Ⅰ型)
以下の2つの条件のいずれも満たすことが条件です。
- 事業承継対象期間内における法人(中小企業者)設立、又は個人事業主としての開業
- 創業にあたって、廃業を予定している者等から、株式譲渡、事業譲渡等により、有機的一体としての経営資源(設備、従業員、顧客等)の引き継ぎを受けること
※ 廃業に伴い店舗や設備のみを引き継ぐ等、個別の経営資源のみを引き継ぐ場合は対象外
- 経営者交代型(Ⅱ型)
以下の2つの条件のいずれも満たすことが条件です。
- 親族内承継や従業員承継等の事業承継(事業再生を伴うものを含む)
- 産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、経営等に関して一定の実績や知識等を有している者であること
- M&A型(Ⅲ型)
以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 事業再編・事業統合等のM&A(親族内承継を除く)
- 産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、経営等に関して一定の実績や知識等を有している者であること
M&Aを通じて、新しい分野や新しい商品・サービスを開発する事業者は「経営革新事業のM&A型」に該当する可能性があります。
専門家活用事業
M&Aにより経営資源を他者から引継ぐ、あるいは他者に引継ぐ予定の中小企業・小規模事業者(個人事業主を含む。)
専門家活用事業は「買い手支援型」と「売り手支援型」に分かれます。
- 買い手支援型(Ⅰ型)
事業再編・事業統合に伴い、株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等を支援する類型で、以下1〜2をいずれも満たすことが要件です。
- 事業再編・事業統合に伴い経営資源を譲り受けた後に、シナジーを活かした経営革新等を行うことが見込まれること。
- 事業再編・事業統合に伴い経営資源を譲り受けた後に、地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業を行うことが見込まれること。
- 売り手支援型(Ⅱ型)
事業再編・事業統合に伴い、株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等を支援する類型で、以下の条件を満たすことが条件です。
1.地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業等を行っており、事業再編・事業統合により、これらが第三者により継続されることが見込まれること。
M&A仲介業者を利用してM&Aを実施する場合には、M&A仲介業者へ高額な報酬を支払わなければなりません。
「専門家活用事業」を利用すれば、売り手も買い手も上限400万円まで補助を受けることが可能です。
廃業・再チャレンジ事業
事業承継・M&Aに伴い既存の事業を廃業し、新たな取り組みにチャレンジする予定の中小企業・小規模事業者(個人事業主を含む。)
※再チャレンジの主体は、法人の場合は株主、個人事業主の場合は個人事業主本人
「廃業・再チャレンジ事業」に向いているのは次のような人です。
- 事業の廃業を考えている人
- 他の事業への転換を検討している人
既存の事業を廃業して、新しい事業への再チャレンジを検討している方は「廃業・再チャレンジ事業」の適用を受ければ、廃業に伴う費用の一部の補助を受けることができます。
廃業支援費、在庫廃棄費、解体費などの補助を受けることができるので、「廃業して新しいことをしたいけど、廃業するためのお金がない」という方は、廃業・再チャレンジ事業を活用しましょう。
申請方法
事業承継・引継ぎ補助金はオンライン申請のみです。
オンラインで簡単に申請することができますが、オンライン申請の場合には、資料をデータで作成しWEB上でアップロードするなど、それなりにパソコンのスキルが必要です。
パソコンのスキルに自信のない方は、郵送申請も利用しましょう。
それぞれの申請方法を簡単にご説明していきます。
オンラインの申請方法
申請は次の流れで行います。
- 補助対象事業の確認
- gBizIDプライムアカウントの発行
- gBizIDから交付申請・交付決定通知
- 補助対象事業実施・実績報告
まずは、事業承継・引継ぎ補助金の条件に合致しているかどうかを、補助金の要件を確認しましょう。
補助金の申請はJグランツという国のオンライン申請システムでしか行うことはできません。
そのため、先にgBizIDプライムアカウントを発行します。
gBizIDプライムアカウントの発行には次のような用意をする必要があります。
- 法務局が発行した印鑑証明書または地方公共団体が発行した印鑑登録証明書の原本
- (発行日より3カ月以内のもの)
- 法人代表者印または個人事業主の実印を押印した申請書
- 法人代表者自身または個人事業主自身のメールアドレス
- 法人代表者自身または個人事業主自身」のSMSが受信できる電話番号
これらを用意してgBizIDプライムアカウントを発行すると、補助金の申請ができるようになります。
補助金の申請に必要な書類を用意して、Jグランツから補助金を申請しましょう。
補助金の申請と給付の流れ
補助金の申請と給付の流れは次の通りです。
- 補助対象事業者の確認
- 交付申請、交付決定通知
- 補助対象事業実施、実績報告、確定検査補助金交付
- 実績報告
- 確定検査補助金交付
①補助対象事業者の確認
まずは、自社が補助対象事業者かどうかを確認しましょう。
- 経営革新事業
- 専門家活用事業
- 廃業・再チャレンジ事業
それぞれの事業で対象者は異なりますので、補助対象事業に該当するかどうかをまずは確認しましょう。
②交付申請と交付決定通知
Jグランツで補助金の交付申請を行い補助金の申請が承認されると、メールで交付決定通知が届きます。
申請期間終了から1ヶ月〜2ヶ月程度で審査の結果がでます。
③補助対象事業実施
補助金が採択されたら、補助対象事業を実施します。
「専門家活用事業」の場合であれば、M&Aの手続きを実際に実施します。
相手先企業と条件が折り合い、契約締結を行うと、M&A仲介業者への料金の支払義務が発生します。
補助金は後払いですので、M&A仲介業者へ支払う報酬は、最初は自己資金でなければなりません。
④実績報告
補助対象事業が完了したら、実績報告を行います。
実績報告とは申請時に計画した事業計画通りに事業を実施したことを報告するものです。
事務局は補助対象事業が申請通りに完了したかどうかをしっかりと報告書によって確認します。
⑤確定検査・補助金交付
報告を上げると事務局が補助事業を実施したかについて確認を行います。
確定検査に問題がなければ補助金が交付されます。
補助金が交付されるまでに、補助対象事業が完了してから数ヶ月程度の時間がかかります。
事業承継・引継ぎ補助金は誰に相談したらいい?
事業承継・引継ぎ補助金をスムーズに受給するためには専門家へ相談した方がよいでしょう。
次のような専門家へ相談するのがおすすめです。
- 顧問税理士や会計士
- M&Aアドバイザー
顧問税理士や会計士
顧問税理士や会計士がついている人は、まずは会社の決算状況を最もよく理解している税理士や会計士へ相談しましょう。
税理士や会計士は補助金申請の業務も行っているので、まずは最も身近な専門家へ相談してください。
M&Aアドバイザー
相談をしているM&Aアドバイザーも補助金について詳しい知識を持っています。
補助金の受給要件があるのであれば、M&Aアドバイザーの方から補助金について知らせてくれることもあります。
M&Aアドバイザーにすでに相談している場合には、補助金についても相談してみましょう。
まとめ
M&Aによって事業承継を行う場合には、補助金を受けられることがあります。
補助金が受給できれば、M&A実施に伴う多額の経費の一部を補助してもらえるのでメリットがあります。
顧問税理士や会計士、M&Aアドバイザーなどに補助金について確認してみましょう。
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