「M&Aを実施すると発表し株価が上昇しました」というニュースを目にしたことがある人も多いのではないでしょうか?
M&Aは企業の規模や業態を大きく変えるので、株価と密接に関係しています。
M&Aによって株価が上昇するケースや、下落するケースについて具体的に解説していきます。
M&Aにおける株価算定の方法についても解説しますので、「自分の会社はいくらで売れるのか」と気になる方もぜひご覧ください。
なお、M&Aの意味について詳しく知りたいという方は以下の記事をご覧ください。
M&Aと株価は連動する?
M&Aと株価は基本的に連動します。
M&Aは企業の規模や業態を大きく変えるので、基本的には上昇します。
買い手企業は期待値が高まるので上昇しますし、売り手企業もプレミアムがついたり財務状況の改善が期待できるので株価は上昇する可能性が高いでしょう。
基本的には「M&Aを実施する」というニュースが発表されたら「売り手企業も買い手企業も株価は上昇する」と理解しておきましょう。
なお当然ですが、M&Aによって株価が上昇するのは上場企業だけで、売買市場がない非上場企業の株価はM&Aを行なっても動くことはありません。
M&Aと株価が連動しているのは上場企業だけです。
買い手側の企業の株価が上昇する要因
買い手企業の株価は以下の2つの理由によって、M&Aによって上昇します。
- 買い手企業が規模拡大を図るから
- 買い手企業が新規事業を始めるから
M&Aで株価が上昇する買い手側の要因を詳しく解説していきます。
買い手企業が規模拡大を図るから
M&Aによって買収する業種が、現在の業種と同じであれば、投資家は「規模拡大をする」と判断します。
このような場合には「規模拡大によってさらに業界シェアを高め、売上と収益性がアップするのでは?」と予測されます。
市場は期待値によって動いているので、将来的な収益向上を見込んで投資家は買い手企業の株を購入する傾向があります。
買い手企業が規模拡大を図るためのM&Aは市場から期待されて株価が上昇する傾向があります。
買い手企業が新規事業を始めるから
買い手企業の買収先がこれまでの業種とは異なる場合には「新規事業を始める」と判断されます。
これも株価上昇の理由の1つです。
新規事業にとって収益力拡大が期待できるのはもちろん、他の業種を買収することによって既存の事業とのシナジー効果が生まれ、既存事業の収益力が飛躍的に高まることが期待されるためです。
買い手企業が、既存の事業と異なる業種を買収する際も、期待値が高まり株に買いが集まる傾向にあります。
売り手企業の株価が上昇する要因
買収される側の売り手企業の株価もM&Aによって上昇することがあります。
売り手企業の株価が上昇するケースとして以下の3つの状況があります。
- 買収によってプレミアムが上乗せされるから
- 有力企業の傘下に入るから
- 敵対的買収が行われるケース
プレミアムが支払われる場合や、有力企業の傘下に入るというプラスの理由はもちろん、敵対的買収というマイナスの理由でも株価は上昇する傾向があります。
M&Aにおいて売り手企業の株価が上昇する3つの要因について詳しく解説していきます。
買収によってプレミアムが上乗せされるから
一般的に企業を買収する際には、売り手企業の株価プラスアルファの代金が支払われます。
売り手企業の株式を買い集めて買収するためには既存の株主にメリットを持たせる必要があり、そのために株式の市場価格に上乗せして買取を行います。
例えば「市場価格300円の株価に30円の上乗せを行い、330円で購入する」と発表すれば、株主は市場で売却するよりもメリットがあるので買収に応じるのです。
この場合、この30円の上乗せ部分がプレミアムです。
買い手企業が売り手企業の買収を強く望んでいる場合には、プレミアムが支払われるので、プレミアム分だけ株価が上昇することになります。
有力企業の傘下に入るから
買収によって有力企業の傘下に入るのであれば、売り手業の収益性や財務基盤は強化されることが期待できます。
従前よりも企業が成長する可能性が高くなるので、その期待値から売り手企業に買いが集まる傾向があるでしょう。
また、売り手企業が赤字だったとしても、有力企業の傘下に入ることで財務力が強化され、赤字を解消できる見通しも立ちます。
このように買い手企業が有力企業の場合には、投資家の期待値が高まり、株価が上昇する傾向にあります。
敵対的買収が行われるケース
買い手企業が売り手企業に対して敵対的買収を仕掛けるケースでは株価が上昇する傾向にあります。
相手の合意を得ずに買収が行われる敵対的買収では、買い手企業が市場から一気に株価を買い集めるため株価が上昇します。
また、TOBによって敵対的買収をする場合も、市場価格よりも高値で買い付けをするため、やはり株価は上昇する傾向があります。
M&Aで株価が下落するケース
基本的にM&Aによって株価は上昇しますが、次の3つのいずれかに該当すると、M&Aを実施しても株価が上がらないか下落してしまう可能性があります。
- 買収価格が高すぎる
- 投資家の期待が低い
- M&A後に業績が悪化した
M&Aで株価が下落する3つのケースについて詳しく解説していきます。
買収価格が高すぎる
買取価格が高すぎると将来的な費用が大きくなりすぎる心配から株価が下落することがあります。
企業を買収した費用のうち所得した株価よりも高い部分は、「のれん」という無形資産として資産計上されます。
そして、のれんは20年以内で減価償却を行い費用化していきます。
あまりにも買収代金が高額になり、のれんが高額になると、毎年の減価償却費用も高額です。
つまり、高額なのれん代の減価償却費によって収益が圧迫される懸念が高まるので買収金額が高すぎると株価が下落する可能性があります。
投資家の期待が低い
M&Aに対して投資家の期待値が低い場合にもM&Aを行なっても株価は上昇しませんし、場合によっては期待値の低いM&Aへの支出を懸念して株価が下がることもあります。
買収する企業の経営状態が非常に悪い場合などは、投資家の期待が下がったり、買収した企業に対するリスクが高まります。
このような買収の場合には、投資家の企業に対する懸念が高まり、株が売られて株価が下落する可能性があります。
M&A後に業績が悪化した
M&Aを行なったことによって業績が悪化するケースでは、株価が下落します。
M&Aには買収のための多額の資金が必要ですし、買収後に運転資金も必要です。
そのため、買収した企業が合併や吸収後に上手く機能しない場合には、運転資金の増加によって企業の収支は悪化します。
また、買収によって多額の資金を使用した場合には、財務状況が悪化します。
M&A後に企業の業績が悪化した場合は、長期的な経営悪化が懸念されるので、株価が大きく下落する可能性があります。
M&Aにおける株価算定方法
M&Aにおいて株価を算定する方法は次の5つです。
- 純資産価額方式
- 収益方式
- 配当還元方式
- 類似会社比準方式
- 取引事例方式
算定方法によって株価は異なるので、それが売買価格にも大きく影響します。
M&Aにおける株価の算定方法についても理解しておきましょう。
純資産価額方式
純資産価額方式とは企業の純資産を評価して売買価格を決定する方法です。
一株あたりの評価額は次の数式で判定します。
1株あたりの評価額=純資産÷自己株式を抜いた発行済株式数
企業の純資産を評価する際には含み損も加味されるので、企業の財務状況の実態がわかりやすいという特徴があります。
M&Aで株価を評価する場面では最も利用される方法の1つです。
収益方式
過去の業績から将来的な収益を予想して、収益ベースで企業の株価の価値を評価する方法です。
具体的な計算方法は次の通りです。
1株あたりの評価額=(将来的に予想される利益÷資本還元率)÷自己株式を抜いた発行済株式総数
将来的な収益を予測できるので、買い手企業にとっての買収の価値が分かりやすく、この方法もM&Aで株価を評価する場面においては頻繁に用いられる方法です。
配当還元方式
配当還元方式とは、企業の配当金に着目して株価を算出する方法です。
配当金をベースに企業の株価を算出するため、配当を毎期出している企業においては株価を算出することは容易ですが、中小企業では配当を出していないことが多いので、株価を算出することはできません。
また、株式そのものの価値を算出することはできても、企業全体の資産などの価値を評価することはできないので、配当還元方式はM&Aの場面でそれほど使われることはありません。
類似会社比準方式
類似会社比準方式とは、類似している公開会社の株価や収支や財務状況を基に、売り手企業の株価を算出する方法です。
売り手企業が上場している場合には有力な方法ですが、売り手企業が未上場の場合には活用できません。
M&Aの売り手が上場企業の場合のみ使われる方法だと理解しておきましょう。
取引事例法
取引事例法とは、同種の企業が過去どの程度の価格で売買されてきたのかの取引事例を基に株価を算定する方法です。
実際の取引額や、経営内容や、売買後の経営状況などを取引事例に加味して株価を算定します。
直近で同種同規模の企業に対するM&Aが行われていた場合は、活用できる方法です。
まとめ
M&Aと株価は連動しています。
企業がM&Aによって大きくなるということは、買い手企業にとっても売り手企業にとっても収益力や経営基盤強化につながるので基本的には株価は上昇する傾向にあります。
また、異業種を買収することによってシナジー効果が発揮される可能性も期待できるので、期待値が高まり株価が上昇する可能性があるでしょう。
しかし、M&Aに期待できない場合には株価が下落することもあるので、M&Aによってどのような効果がもたらされるのか見極めることが重要です。
上場企業でない場合には、どのような方法で評価されるのかによっても株価は異なるので注意しましょう。
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